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#author("2022-08-17T16:14:42+09:00","","")
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*メッシュネットワークとは [#r561f18d]
*アドホック通信(アドホックネットワーク)とは [#u4db5ccf]

メッシュネットワークは、主にWi-Fi (無線LAN)のカバーエリアを拡大するために、無線の中継局と通信経路を動的に構築する技術のことを言います。
ISMバンドの無線通信を最大限に利用して、即時的で手軽な無線通信網を構築するための技術です。アドホックネットワークにおいてネットワークは局所的であり、通信料金や加入手続きも必要なく、機器間同士が直接、自律的に通信を行います。

2018年前後から、Googleを筆頭に家庭用Wi-Fiルータにメッシュネットワーク機能を組み込むことがトレンドになり、一気に普及しました。いまではほとんどの家庭用無線LANルータにメッシュ対応モデルが用意されています。
これによって例えばデジカメから無線でプリントアウトを行ったり、大規模な災害現場で即時的な無線通信網を構成したり、ビルの中に小型の無線機を設置して温度やセキュリティの管理を配線なしで行うなど、幅広い応用が期待できるようになります。

*メッシュネットワークの語源 [#r561f18d]

米Mesh Networks社が最初にこの技術を商用化したのが始まりではないかと思います。会社名がそのまま技術名として定着したようです。
**「アドホック」であることの難しさ [#s1276d11]

Mesh Networks社は旧モトローラに買収されました。製品は今でも「MotoMesh」の名で残っています。
アドホックネットワークは、その名前が示す通り、その場限りの即時的な(=アドホックな)ネットワークを構成して、端末間でのデータ通信を可能にします。一般的にインターネットへのアクセスは必ずしも保証されていません。

*メッシュネットワークの要件 [#r561f18d]
しかしそうなると、IP(Internet Protocol)通信にアドホックネットワークを適用する場合に以下のような難しい問題が発生します。

現在「メッシュネットワーク」(または短く略して「メッシュ」)は、様々な人がいろいろな意味を込めて使っており、定義は定まっていません。
-偶然選択された端末のIPアドレスのユニークネスをどうやって保証するか

しかしすべてに共通しているニュアンスとして、最大公約数的な要素が2つだけあります。
--「DHCPサーバが利用できずIPもサブネットも不明な2つの端末はどうやって通信するの?」問題。

メッシュネットワークの2要件
-マルチホップ通信
-Self-forming, Self-healing機能
-IPアドレスをユニークに割り振ったとして,端末の素性とアドレスの対応付けをどのように行うか

無線に「メッシュ」機能を求める人は、暗黙のうちにマルチホップ通信機能のサポートを期待しています。メッシュネットワークの重要な要素技術の一つに「経路制御」があり、経路制御はマルチホップ通信のために存在します。
--「DNSが利用できない状態で相手の素性をどうやって知るの?」問題。

またself-forming(自動的なネットワーク形成)とself-healing (自己修復)機能も暗黙のうちに期待しています。Wi-Fiの中継局を追加すれば自動的にネットワークに取り入れられ、また除去すれば、その中継局の利用が自然に停止するといった、自動的なネットワーク形成の能力が重要です。
最も普及しているアドホック通信の代表例であるBluetoothでは、これを

**通信経路の自動修復(self-healing)機能: [#ne98045c]
-Non-IPベース
-プロファイル(端末の素性)を厳密に定義しておく
-プロファイルをその場で交換しあうBootstrapシーケンスを厳密に定める

&ref(healing1.png,nolink,healing1);
というアプローチで解決しています。そのおかげで、現在のように、未知の端末同士が出会ってもスムーズにネットワークが形成(ペアリング)できるようになっています。

&ref(healing2.png,nolink,healing2);
**アドホックネットワークの可能性 [#va65f4bf]

広い意味での(無線)メッシュネットワークは、この2要件を満たす無線システムのことを言います。
アドホックネットワークはマルチホップ通信を併用するケースが多いです。アドホックで即時的なネットワーク構築と、マルチホップによる通信範囲の拡大によって、自律的で局所的な無線網を形成します。

このため「マルチホップ通信はサポートするが、経路は固定(または手動設定)」という製品をメッシュ対応とは言いずらいです。
このため理論的には基地局設置コストを限り無くゼロに近付けることができ、従来の設備投資型通信事業モデルとは根本的に異なる無線通信サービスを提供できる可能性を秘めています。

またネットワーク形態がツリーだからメッシュ対応ではないという言い方も、適切とは言えません。そのシステムがSelf-healingをサポートするのであれば、ツリーの親が動的に切り替わるという点でそれはおのずと網の目状になり、れっきとしたメッシュネットワークと言えます。
*最後に [#k9781dea]

メッシュネットワークは主にWi-Fi (IEEE 802.11xx系)で研究・実装・運用されてきた経緯があり、最も広く使われているのもまたWi-Fi メッシュルーターです。しかし必ずしもWi-Fiメッシュだけに限られた通信技術ではありません。

*Mesh-underとRoute-over [#r561f18d]

IP(Internet Protocol)ベースのメッシュネットワークを実装するレイヤとしては、大きくMesh-underとRoute-overに別れます。

Mesh-under方式はレイヤ2(MAC層)で実現します。特徴として、ルーティングはL2で完結しているため、あたかも同一サブネット内、同一セグメントのバスで互いに直接通信しているかのような状態として利用できます(たとえばブロードキャストの扱いなど)。Mesh-underのシステムで10ホップ先の端末にpingを打っても、TTLは1しか減りません。

Route-over方式はレイヤ3(IP層)で実現します。一般的なL3のIPルーティングと同じで、ルーティングテーブルを適切に操作することでマルチホップ通信を実現します。考え方はインターネットで複数台のルータを経由した通信と全く同じです。10ホップ先の無線端末にpingを打つとTTLが10減ったecho replayが応答されます。

* Wi-Fiメッシュはなぜこれほど急速に一般化したか [#r561f18d]

「家庭向けに大きなニーズがあった」というのが最大の理由と思われます。筆者も10年以上前に、大手の無線LANルータメーカーと「家庭用メッシュルーター」の製品企画を進めたことがあります。結局、製品化には至りませんでしたが、今振り返ると「成功にはタイミングが重要」という貴重な教訓を得られた経験でした。

では、昨今のメッシュ対応ルータの急激な普及の技術的な要因はなんでしょうか? 

一つ言えるのは市販のWi-Fiメッシュルータのメッシュネットワーキング機能が、純粋にソフトウェアだけで実現されているとは考えにくいということです。複数のRF部の帯域・周波数制御、QoS、リンク品質監視、経路選択、これらの要素をGiga bpsクラスのスループットを維持しながら実現するには、半導体の力なくしては困難です。

実際には、クアルコムといったメーカーのWi-Fiチップセットにメッシュ機能が実用レベルで実装され、広く安価に出回るようになり、結果、ほとんどの無線LANルータメーカーで素早い製品化が可能になったのだと推測されます。この「チップセットを採用するだけでメッシュ対応にできる」という絶大なメリットにより、対応製品が市場で一気に広がりました。


*最後に [#oe42ee72]

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