メッシュネットワークは、主にWi-Fi (無線LAN)のカバーエリアを拡大するために、無線の中継局と通信経路を動的に構築する技術のことを言います。
2018年前後から、Googleを筆頭に家庭用Wi-Fiルータにメッシュネットワーク機能を組み込むことがトレンドになり、一気に普及しました。いまではほとんどの家庭用無線LANルータにメッシュ対応モデルが用意されています。
米Mesh Networks社が最初にこの技術を商用化したのが始まりではないかと思います。会社名がそのまま技術名として定着したようです。
Mesh Networks社は旧モトローラに買収されました。製品は今でも「MotoMesh」の名で残っています。
現在「メッシュネットワーク」(または短く略して「メッシュ」)は、様々な人がいろいろな意味を込めて使っており、定義は定まっていません。
しかしすべてに共通しているニュアンスとして、最大公約数的な要素が2つだけあります。
メッシュネットワークの2要件
無線に「メッシュ」機能を求める人は、暗黙のうちにマルチホップ通信機能のサポートを期待しています。メッシュネットワークの重要な要素技術の一つに「経路制御」があり、経路制御はマルチホップ通信のために存在します。
またself-forming(自動的なネットワーク形成)とself-healing (自己修復)機能も暗黙のうちに期待しています。Wi-Fiの中継局を追加すれば自動的にネットワークに取り入れられ、また除去すれば、その中継局の利用が自然に停止するといった、自動的なネットワーク形成の能力が重要です。
広い意味での(無線)メッシュネットワークは、この2要件を満たす無線システムのことを言います。
このため「マルチホップ通信はサポートするが、経路は固定(または手動設定)」という製品をメッシュ対応とは言いずらいです。
またネットワーク形態がツリーだからメッシュ対応ではないという言い方も、適切とは言えません。そのシステムがSelf-healingをサポートするのであれば、ツリーの親が動的に切り替わるという点でそれはおのずと網の目状になり、れっきとしたメッシュネットワークと言えます。
メッシュネットワークは主にWi-Fi (IEEE 802.11xx系)で研究・実装・運用されてきた経緯があり、最も広く使われているのもまたWi-Fi メッシュルーターです。しかし必ずしもWi-Fiメッシュだけに限られた通信技術ではありません。
IP(Internet Protocol)ベースのメッシュネットワークを実装するレイヤとしては、大きくMesh-underとRoute-overに別れます。
Mesh-under方式はレイヤ2(MAC層)で実現します。特徴として、ルーティングはL2で完結しているため、あたかも同一サブネット内、同一セグメントのバスで互いに直接通信しているかのような状態として利用できます(たとえばブロードキャストの扱いなど)。Mesh-underのシステムで10ホップ先の端末にpingを打っても、TTLは1しか減りません。
Route-over方式はレイヤ3(IP層)で実現します。一般的なL3のIPルーティングと同じで、ルーティングテーブルを適切に操作することでマルチホップ通信を実現します。考え方はインターネットで複数台のルータを経由した通信と全く同じです。10ホップ先の無線端末にpingを打つとTTLが10減ったecho replayが応答されます。
「家庭向けに大きなニーズがあった」というのが最大の理由と思われます。筆者も10年以上前に、大手の無線LANルータメーカーと「家庭用メッシュルーター」の製品企画を進めたことがあります。結局、製品化には至りませんでしたが、今振り返ると「成功にはタイミングが重要」という貴重な教訓を得られた経験でした。
では、昨今のメッシュ対応ルータの急激な普及の技術的な要因はなんでしょうか?
理由の一つは、Wi-Fiメッシュルータの主要機能が、ソフトウェアでなくSoC(半導体)で実現されている点でしょう。複数搭載されたRF部の周波数・アンテナ制御、QoS、リンク品質監視、高速な経路選択とリンクリカバリー、これらの要素をGiga bpsクラスのスループットを維持しながら実現するには、低レイヤから上位層まで一貫した統合的な設計が必要です。
実際には、クアルコムといったメーカーのWi-Fiチップセットにメッシュ機能が実装され、実用レベルで広く安価に出回るようになり、結果、ほとんどの無線LANルータメーカーで素早い製品化が可能にましました。「チップセットを採用するだけでメッシュ対応にできる」というこの絶大なメリットにより、対応製品が市場で一気に広がりました。
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